有田みかんの 床矯正 歯列矯正日記 有田みかんの歯列矯正日記

床矯正による歯列矯正治療について

『床矯正・矯正治療の手引き』より著者の鈴木設矢先生の許可を得て引用しています。

「床矯正による矯正治療とは?」という疑問のために「床矯正・矯正治療の手引き」から引用、転載させていただきました。
このページについての専門的な疑問、質問、ご相談はなどは恐れ入りますが、床矯正の治療をされている専門医の先生にしていただけますようお願いいたします。


矯正治療で歯は絶対に抜かなければいけないのですか?

広辞苑において[矯正]とは欠点をなおし、正しくすることと書いてあります。
[矯正術]の項目では機械的作用を応用して、人体骨関節の運動障害または変形を手術せず矯正する術と定義されています。辞書的には外科を伴った治療法は矯正ではないということです。

では、歯科の矯正だけが「歯を抜く」という手術をするのでしょうか?
矯正歯科の専門医も抜歯を伴う治療を決して良しとしているわけではありません。
しかしながら残念なことに抜歯を伴う矯正治療が主になっているのも事実です。
様々な理由により、子供達の中で小学生高学年2%、中高生で4%しか矯正治療を受けていないのが現状です。
1つの治療法が絶対ということはありません。いろいろな治療方法を選択するのは患者さんです。

●ここでは歯を抜かない矯正治療を紹介します。

これから紹介する床矯正(床矯正)装置は、1935年ウイーンの歯科医師シュワルツ【Shwartz】が[床矯正]の基礎を樹立しました。そのためこの装置を「Shwartzの矯正床」と呼びます。

当時の矯正器具は、貴金属を使った高価な物でした。第一次世界大戦の敗戦で、ドイツは経済不況に陥り、ナチス・ドイツは歯科医療に貴金属の使用禁止を指示しました。
シュワルツは、矯正治療を必要とする患者さんのために[床矯正装置]を考案しました。
この方法は、貴金属を固定源にするのではなく、入れ歯を固定源にすることで、歯を動かしたり、顎を拡大する装置です。装置は可撤式ですから、必要に応じて装置は自分ではずせます。

以後、ヨーロッパでは貴金属を使用しない床矯正が普及しました。 
1960年代までのヨーロッパでは床矯正が主流の治療方法でした。
また、ヨーロッパはひろく社会福祉が普及したため、矯正専門医ではなく、開業医が矯正治療を処置していました。

一方アメリカでは歯を抜歯してスペースを作り、教条的治療で厳密な治療が進歩したため、矯正専門医のみが治療してきました。
日本の矯正学は、アメリカの矯正治療が主流のため、あまり床矯正による治療は普及していないのが現状です。
45ページに「矯正治療は子どものためだけの治療ですか?」という項目に述べているように歯並びが悪ければ、虫歯によって歯の動いた歯列を改善するのも矯正治療です。
矯正歯科の専門医は、専門医としての治療をおこないますが、患者さんのいろいろな要望に応えるメニュー豊富な臨床医が必要ではないでしょうか?

●矯正の治療だけでなく、すべての治療の理念ですが・・・

10歳の子どもは、やがて20才の青年、50才の壮年、80才の老人になります。」10才の時の治療は、10才のための治療ではありません。より良い青年、壮年、老人になるための治療でなくてはなりません。
大切なのは子どもは大人の縮小ではないことです。
子どもは正しく大人に発育すべきです。

歯は、一回削ったり、抜いたりしたら、元には戻りません。
人間には無駄な組織はありません。歯は、人間が機能と発育をするための大事な構成要因です。
その組織を失うことは、人としての一生を考えるとその損失ははかりしれません。
きれいな歯並びを得るために、失う機能と発育を考えます。
何かをすれば、プラスとマイナスが共に生じます。
医療は、プラスを基準にするよりも、出来るだけマイナスを少なくしてプラスを得る事を考えるべきです。

厚生省(現在厚生労働省)は、昭和23年に歯科を一般歯科、小児歯科、矯正科(昭和54年)、口腔外科に分けました。
ここから歯科治療の混乱が始まりました。

歯科治療の基本は、口腔外科、補綴(ほてつ)科、保存科の3つの違った治療科目の立場で治療します。
口腔外科は、手術をすることを基本としています。補綴治療は失った歯を人工の歯、材料で補うことを基本としています。保存治療は、出来るだけ歯を残すのが基本の考えです。
生体のバランスを大切にした治療方法と考えています。

一般歯科の治療も、矯正歯科の治療も、治療目的によって治療方法が変わるのは当然です。
従来の矯正は、口腔外科を基本としています。補綴の立場の矯正治療が審美歯科です。
床矯正による矯正治療は、保存的治療です。どの治療方法が良いかという答えはありません。
いろいろな治療方法を患者さんが選択するべきでしょう。

●保存的矯正治療を処置するにあたり以下のことを念頭に治療にあたっています。

1.歯科治療の多くは、治療という名目で歯を傷つけています。傷つけられた歯・抜かれた歯は、元には戻りません。そして、機能の低下が起こります。出来るだけ歯を保存する姿勢が大切だと思います。
これに基づいて治療しますので、非抜歯による治療を大前提としています。

2.床矯正の治療方針は、保存的矯正治療を基本としています。
歯と顎の大きさがアンバランスで、未発育な顎を床矯正装置により適切に拡大し、歯を移動することによって解決します。
しかし、歯がねじれていたり、回転している場合、多数の歯をそれぞれの方向に三次元的に移動するケースの場合は、形状記憶合金のワイヤーで治療をおこないます。治療方法としては、それぞれの方法の利点、欠点があります。
それぞれの治療法を融合して、患者さんの求める治療を決定したいと思います。

3.床矯正装置の可動条件、装着条件は、患者さんの生活環境、社会環境に合わせて設定します。
装置のネジを可動しなかったり、決められた装着時間を守らないといつまでたっても治療は終了しません。

4.矯正治療を必要とする患者さんは、顔を構成している上顎骨、下顎骨が未発育です。
つまり、歯並びの問題は歯だけではなく、顔の萎縮に大きく関与しています。
「良い歯並び」は「良い願貌」につながる問題です。
当院は、歯並びだけが良くなればいいとは考えていません。
患者さんを「良い顔」に育成することが歯科医師の仕事と考えて治療にあたっています。

5.矯正治療は、現在、保険治療の対象ではありません。
今までの矯正治療の費用は、一般的に高額です。金額によっては治療を受けられる環境と、治療したくてもできない環境があります。医療に携わる物として、大変憂いを感じます。
私どもの治療は、多くの患者さんの不正な咬み合わせを治すことですから、できるだけ金銭的負担を少なくしたいと考えています。

通常の矯正治療は口単位で治療費を設定しています。しかし、患者さんの一部にはここだけ治してほしいと来院する患者さんもいます。患者さんの求める処置だけ治療するのが、ヨーロッパの考えです。日本の多くの矯正専門医は、アメリカの考えを基本にしています。アメリカの治療方法は、すべての歯並びを教条的立場で治療します。その分だけ治療費は、治療の難易度、期間に関わらず、ほぼ同じ金額になります。

形態を重視する矯正の考え方に対して、当院は形態だけでなく機能を重要視しています。
早期の治療開始により、上顎だけ、あるいは下顎だけで終了する治療のケースもあります。
早期に来院して、装置1つで終了する場合もあります。治療が複雑になり、いくつかの装置が必要なケースもあります。様子を見ていては悪くなるだけです。早期の治療開始が大切です。

当院は、1つの装置に対しての金額を設定しています。基本的には1装置は60.000円前後です。
地域により治療費は異なります。装置は、基本的に二次元的拡大として1つの方向にしか顎を拡げたり歯を移動することしかできません。三次元的に治療する形状記憶合金のワイヤーの治療を併用しますが、ワイヤーを使用するケースも1つの装置ですので、基本的にワイヤーも同一の治療費用です。